Quirky01

革命的クラウドソーシングQuirkyが$9000万も資金調達できた訳


Quirky01

今、急拡大しているクラウドソーシング。その中でも、今回はそのユニークさで話題になっているQuirkyをご紹介します。

発明的アイディアを実現する Quirky

Quirkyは42万7千人の登録会員からなるコミュニティによってアイディアを製品化するクラウドソーシングサービスです。「こんな便利なものがあったらいいのに」などとアイディアがひらめいたことはありませんか?従来であれば単なる妄想で終わっていたそんなアイディアも、今ではQuirkyが一緒に実現してくれるのです!

Quirkyの仕組み

投稿されたアイディアをQuirkyがクラウドを使い、製品化の判断、デザイン、価格設定を行い、最終的に製品が売れると、その10%-30%が発案者とクラウドの協力者に支払われるという仕組みです。Quirkyのオンラインショップでは、このプロセスにより生み出された夢の膨らむアイディア製品で盛りだくさんです。

有力VCが放っておかない

製品開発のクラウドソーシングを成功させるのは難しいと一般に思われていた中、Quirkyは下記のように合計$9000万もの投資をAdreessen Horowitzはじめ有力VCから受け、今後の成長が注目されていますなぜこのようなことが可能になったのか、紐解いてみましょう。

Quirky Funding

VCが投資する理由

シリーズCで$6800万もの投資をしたAdreessen HorowitzのパートナーScott WeissはQuirkyは従来型の製品開発を行っているP&Gのような会社に勝る革新的なサービスだと断言しています。以下は彼がブログに記しているAdreessen HorowitzがなぜQuirkyに投資したかの理由です。

1) CEOであるBen Kaufmanの適性

創業者であるBen Kaufman自身、以前のiPhoneアクセサリー事業において、いいアイディアを思いついた発案者がその後のプロトタイプ(試作品)制作、生産工程、小売店での販売などに苦心するかを目の当たりにしてきました。そこでの試行錯誤から、もっと良い方法があるはずとの思いが起点になりQuirkyを創業しています。こういったBen Kaufmanの適性がVCの期待値を大きく上げています。

2)過去の実績

ほとんどのQuirkyのアイテムは$5万以下の投資と1-4人のデザイナー&エンジニアがクラウドを使う事で製品化されています。このように最小限のリソースでひとつひとつの製品化を進める事により、今までに製品化したもの全てが利益を生んでいるという実績が評価されています。

3)スピード

通常P&Gなどで1つの製品が生まれるには18-24ヶ月という長さが常識です。それに対してQuirkyではアイディアが生まれてから製品が棚に並ぶまで120日という恐るべき短期間で製品化を成し遂げます。しかも、3Dプリンターでプロトタイプを作り即クラウドによるフィードバックをとり反映させることで、リスクをできる限り取り除きます。このクラウドを使った効率的で迅速なプロセスは、他社にとっては脅威です。

4)大型小売店のバックアップ

Target、Fab.com、Bed Bath and Beyond、Amazon.comなどの大型小売店によるサポートは強力です。彼らがQuirkyの革新性やスピード感を高く評価しているがゆえに、Quirkyはより高値での製品化やより優位な店頭ディスプレイをとることができます

5)トップレベルのデザイナー陣

ハイスピードなカルチャーでQuirkyは、トップレベルのデザイナーを囲い込むことに成功しています。5-10もの製品のデザインを同時並行で進めるということ自体が、幅広いポートフォリオのデザインを手がけたい優秀なデザイナーにとっては魅力的なのです。

6)SBT(Scan-Based Trading)という革新的試みにより小売店を味方に

レジで製品がスキャンされるその瞬間までサプライヤー(この場合はQuirky)が在庫の責任を持つSBTという新しい管理方法をQuirkyはクラウドの力で実行に移そうとしています。昨年の10月の発表によると、Quirkyコミュニティの中で選ばれた人がアプリを通し担当している小売店の棚をチェックし、Quirkyと連絡を取り合うことで在庫を管理します。それにより、発案者に対して支払われるように、SBTを担当し在庫を管理している人たちにも支払いが行われるようになります。この試みは提携小売店に大評判で、その革新性や協力姿勢がより小売店との関係を強める事につながっているようです。

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Quirky事例から読み取るクラウドソーシングのトレンド

私がこのQuirkyの事例を見て、今後波がくると思う3つのトレンドは以下です。

  • クラウドを利用したプロジェクトマネジメント:OdeskやElanceといった依頼をすれば仕事をしてくれるタイプのクラウドソーシングサービスから一歩踏み込み、Quirkyは各ステージでクラウドの力を利用しつつも、プロジェクトをゼロから完成まで主体的に動かします。クラウドソーシングは「仕事の質が低い」「単純作業しか依頼できない」と思われがちですが、このようなプロジェクトマネジメント機能を加える事で確実に結果を出すことができるのです。
  • レベニューシェアによるリスク低減:通常は売れるかどうか分からないアイディア製品も、売れた場合のみ売上げの中から発案者とサポートした人たちに支払われるレベニューシェアの形式をとることで開発段階の初期投資のリスクを低減しています。発明的アイディアを扱うケースのみならず最後まで成功が読めない事業では、こういったクラウドに対しての報酬を売上げに連動させる形が成功の鍵となるでしょう。
  • 事前に消費者を巻き込みファン化する「プレシューマー」の存在:Quirkyは一緒にアイディアを実現するというインセンティブによりうまくクラウドを巻き込むことで、消費者インサイトの反映された製品化と開発段階からのファン育成(=未来の製品購入者)に成功しています。この開発初期段階からサポートしてくれるプレシューマーたちは開発に自分たちの思いが反映されることからいち早く口コミを起こしファンを育成してくれるといったサポート役を果たします。こういったプレシューマーによる製品開発は今後ソーシャルメディアの拡大とともにより強まってくるでしょう。

どうでしょうか。Quirkyの今後のみならず、製品開発などプロジェクトマネジメントをするクラウドソーシングが今後どのような形で発展していくのか、先行きが楽しみですね。

 

参考:http://www.quirky.com
http://scott.a16z.com/2012/09/06/disrupting-proctor-gamble/


Author: Kazuyo Nakatani 中谷和世 Kazuyo Nakatani: 音楽大学声楽科卒業後、留学斡旋企業の営業/マーケティングを担当。その後、USへ渡り2007年にミシガン大学MBA取得。2007年〜2012年P&GにてSK-IIのマーケティングに従事する。うち3年はシンガポールに駐在。現在は東京在住、オンライン動画配信ビジネスのMarketing Directorを勤める。