NetflixConf

フジテレビとの会見にみるNetflixのオリジナルコンテンツ戦略


NetflixConf

日本でのローンチを発表する前から、私が注目してきたNetflix。

(こんな記事も書きました。→  Netflix視聴の75%を支えるオススメ機能の秘密

今週、そのNetflixとフジテレビのオリジナルコンテンツ共同制作の記者会見に出席してきました。

すでに人気は保証されている「テラスハウス」新シーズンに加え、完全な新作「アンダーウェア」の制作が発表となりました。この2作をこの秋と言われているNetflixのサービス開始とともにNetflix上での独占先行配信を予定しているとのことです。Netflixは、民放各局とのオリジナルコンテンツ制作が噂されていますが、その第1弾といったところでしょう。

詳しい会見の模様は多くの記事がでているので、こちらをご覧ください。

Netflix会見の重要ポイント

  • 一番の収穫は、視聴数に応じて収益を配分するRev Share形式での合意ではないということ。
  • Netflix独占先行配信、その後、地上波・フジテレビオンデマンドでの配信を行うとのこと。
  • 期待したNetflix・フジテレビ間での制作費・収益の配分は非公開ということで情報が得られなかった。

あまりメディアにはでていませんが、会見の中で今回の合意はRev Shareではないとの言及がありました。つまり、制作費の配分は非公開だという回答でしたが、ニュアンスとしては、おそらく制作費全額を含めたNetflixの買い取りのように見受けられました。Rev Shareにならなかった理由は、おそらくそのためには視聴データを共有する必要があり、それを避けたかったからというNetflixの事情からではないでしょうか。

Netflixのオリジナルコンテンツ戦略

元々、NetflixはUSでもHouse of Cardsを代表とするオリジナルコンテンツ制作に力をいれています。こちらのリストにもあるように、その数は膨大なものです。今年1月にでたShareholderレターでも、今後オリジナルコンテンツに注力することを伝えています。

We’re releasing 320 hours of new original programming this year alone

「今年だけで320時間分の新たなオリジナルコンテンツを出す」

「320時間のオリジナルコンテンツ」そして「5740万人の定期視聴者を獲得する」というのが2015年の彼らの約束なのです。しかもこのオリジナルコンテンツは必ずしもUS配信またはUSの人々の好みに合わせて作られるものではなく、グローバル展開と足並みを揃えてオリジナルコンテンツも揃えていくという話だったので、着々と実現されていっている感がありますね。

NetflixのLong Term Viewにもあるとおり、オリジナルコンテンツには多額の初期投資がかかります。彼らは1月のShareholder Letterで、その理解を株主に求め、この2月に1851億円($1.5B)の長期負債を借り入れています。(それまでに借り入れた額を合わせると$2.4B、なんと総額2962億円という巨額になる)

これにより、企業の信頼の証であるクレジットレイティングを下げています。(Moody’s: Ba3→B1・S&P: BB-→B+)しかし、Netflixにとってはそのようなリスクは当然織り込み済みで、むしろ今の低利率を考えるとオリジナルコンテンツの資金を調達するにはこれがベストと断言しています。

そんな大金を投じてまでもNetflixがオリジナルコンテンツに執着する意義、それは以下が挙げられるでしょう。

  • ユーザーの離脱回避

Netflixは新規ユーザー獲得よりも、リテンションを重要視しているとSXSWでプロダクトイノベーションVPのTodd Yellinが話していました。彼らにとってオリジナルコンテンツは既存顧客のニーズに応え、離脱を防ぐという目的に沿ったものです。(もちろん、サービス開始の日本では新規ユーザー獲得が目的となりますが)

  • 価格が高騰するライセンス契約料に対するリスクヘッジ

2013年時点でNetflixの過去2年のライセンス契約料は700%も増加しているとのレポート。これは、ライセンス料の支出を下げるだけでなくHouse of Cardsなどのライセンス料収入も増えるということを意味し、オリジナルコンテンツを増やす後押しになっています。

  • 他の動画サービスプロバイダーに対する差別化

これは、言わずもがな、ですね。各社このためにオリジナルコンテンツを作っていると言っても過言ではないでしょう。

オリジナルコンテンツのROI

Netflixの戦略性がかいま見える衝撃的な記述が、Shareholder Letterにありました。

Looking at our original content performance over the last few years, there have been so many impressive aspects…
But there is one real shocker; last year our original content overall was some of our most efficient content. Our originals cost us less money, relative to our viewing metrics, than most of our licensed content, much of which is well known and created by the top studios.

「ここ数年のオリジナルコンテンツの実績をみると、多くのことがわかります。その中でもまさに衝撃的なこと、それは、昨年の実績では、オリジナルコンテンツが最も効率的なコンテンツだということです。我々の視聴メトリック(測定基準)によると、オリジナルコンテンツの方が、有名でトップスタジオで制作されたライセンス契約によるほとんどのコンテンツよりも安いのです。」

安い・・・?安い??!!

これを初めて見た時には、我が目を疑いました。ライセンス料を支払うよりも作った方が安いなんて、聞いたことがありません。

しかし、冷静にこれを読むと、Netflixが1本1本ROIをシビアに見ているのがわかります。「効率が良い」という意味で「安い」と言っているんですね。

気になるのは「我々の視聴メトリック」という言葉。どういう基準なのかは、どこにも開示されていません。新規獲得よりもリテンションを重視するNetflixは、どういったROIの見方をしているのでしょうか。

コンテンツ調達コスト(ライセンスフィーまたは制作費)に対して、どの程度の視聴があったのか、どの程度ユーザーの離脱を防ぐことができたのか、どの程度ユーザー獲得に貢献したか、などのハイブリッドでROIを見ているのではないかと思います。

それを支えるのは、年184億を投じるレコメン機能

以前、以下の記事でご紹介したとおり、Netflixの強みはユーザーに的確なおすすめ作品をとどけることのできるレコメン機能にあります。この機能開発になんと年間184億円($150M)の投資をして開発を行っているというのです。


Netflix視聴の75%を支えるオススメ機能の秘密

オリジナルコンテンツを発注する際には、キャスト・監督・ジャンル等のデータをもとに、可能性のあるオーディエンスの規模感を理解し、どのくらいの投資を行うかを決めているとのレポートもあります。一方で、Netflixは、発注をすると一切口出しをせずに制作のプロに任せるという話も有名ですが、それは自信の現れでもあるのでしょう。

まとめ

「自社の戦略に照らし合わせてROIをみたときに、最も効率的なオリジナルコンテンツを大幅に増やす。」Netflixの考えはどこまでも明確です。

そして、それがうまく機能しているかどうか、配信後、1本1本のコンテンツデータをみてモニタリングしています。

おそらくはコンテンツパートナーに対しデータ開示をしないという契約をかわし、日本でのオリジナルコンテンツ制作に乗り出したNetflixが、独自でどんなラーニングを積んでいくのか・・・今後も注目していきたいと思います。

 

参考資料:
Netflix Long Term View
Arrested Economics: Assessing Netflix’s Original Content Business
This is what Netflix means by “efficient content”


Author: Kazuyo Nakatani 中谷和世 Kazuyo Nakatani: 音楽大学声楽科卒業後、留学斡旋企業の営業/マーケティングを担当。その後、USへ渡り2007年にミシガン大学MBA取得。2007年〜2012年P&GにてSK-IIのマーケティングに従事する。うち3年はシンガポールに駐在。現在は東京在住、オンライン動画配信ビジネスのMarketing Directorを勤める。