アドテックNYレポート:ネスレのデジタル先進企業への変革 セミナー&カンファレンス Tweet 11月6日–7日にNew Yorkで行われたアドテックNYに参加してきました! ニューヨークのアドテックは、今回が初参加。本場のデジタルマーケティングは日本よりも2−3年進んでいるとの評判から期待して行ってきましたが、実際予想を上回る迫力でたくさんの刺激的な学びがありました。 まだまだ興奮が覚めやらぬ状態ですが、私の感動を少しでも伝えたいと思い、まずはレポート第1弾をお届けします。 今回、特に楽しみにしていたのは、オープニングキーノート「ネスレのデジタル企業への変革」。 スピーカーはGlobal Head of Digital & Social MediaのPete Blackshaw氏、2011年にネスレがデジタル化へ大きく舵を切ること託されて採用された人物です。 ネスレのデジタルは、失敗からスタートした 今や、デジタルキャンペーンで数多くの成功事例を出しているネスレですが、実は意外な事に、Peteが採用される直前、ネスレはSocial Mediaで事件を起こしています。 みなさん、覚えていますか?2010年にNGOグリーンピースがネスレの環境破壊を批判した事件を。キットカットがパームオイルを使用している事実をついた動画を拡散させ、大炎上を起こしましたよね。 それに対して、都合の悪いその動画を無理やり消去しようとし、ネスレはSocial Media上で大バッシングに合いました。従来であれば、このような対応をするのは、常識的なことでした。社内の法務部門、広報部門がリスクを評価し、沈静化させるべきであるという意思決定のもと、動画をけすためのアクションを取ったのです。しかし、透明性が求められるソーシャルメディアの時代には、この事実を隠そうとする姿勢が、消費者の批判の的になり、更なる炎上を生んだのです。 まさにこの事件のダメージが、ネスレにデジタル企業へと方向転換を決意させるきっかけとなったのです。 ネスレをデジタル先進企業へと導いた「Nestle Way」 現在、1.8億人のFacebookファンをかかえ、毎日1500以上のコンテンツをSocial Mediaに出すデジタル先進企業となったネスレ。この2年間、Peteがどのようにしてリードしてきたのか、興味津々で聞きました。 彼の主張によると、それを可能にした「Nestle Way」は以下の4つだということでした。 1)Fundamentals are fundamental 「Fundamentals」とは何なのか、あえて、日本語に訳すと、「初心忘るべからず」。マーケティングの基本からぶれないようにしようということです。右のスライドにあるその基本とは、以下の6つのポイント。 ブランドのビジョンをとどける ポジティブな製品体験をとどける 消費者を深く知ること ショッパーを魅了する 引きつけられるブランド体験をつくる より大きく、大胆で、より良いイノベーションを起こす 一見マーケターにとっては当たり前に見えるこれらのポイントですが、私にとっての驚きは、最初にデジタルマーケティングとは必ずしも関係のないこの基本をもってきたことです。私も日々感じているジレンマですが、デジタルマーケティングの戦術に気をとられ、本来のマーケティングが忘れさられてしまっていることがとても多いと思います。 メッセージを伝える相手は誰なのか、その人たちの深いインサイトは、どのようなブランド体験を届けたいのか。それらを明確化しないでCTRやインプレッションばかりを追うことに何の意味があるのでしょうか? デジタルマーケティングやソーシャルメディアに全精力を傾けフォーカスしていると、得てして基本を忘れてしまう・・・おそらくネスレでもそんなことがあったのでしょう。だからこそ、あえてデジタル化を進める中でもマーケティングの基本を忘れないようにしようというメッセージを発しているのだと解釈しました。 2)Paying Less, Earning More 右の図をご覧ください。水色の円は、Paid Mediaを、緑はOwned Mediaを、紫はEarned Mediaを表しています。 左の円に示される従来のメディアバランスは、Paid Mediaが多く、広告枠を買いブランド露出をはかるというものでした。一方、昨今では右の円のように、Paid Mediaが減りその他の割合が増えています。 つまり、TVCMやバナーなどの広告を消費者が信用しなくなり、むしろ口コミやPRなどの情報がより購買に影響を与えるようになってきています。ネスレは、その流れに合わせて、リソース配分を見直しているということです。 Zero Paid Mediaという衝撃的タイトルの本がでたように、今や必要とされているコミュニケーションチャネルがどんどん変化しているのです。 Paid Mediaを減らしEarned Mediaを増やす試みとして紹介されたネスレの事例が以下。 Kit Kat x Androidのタイアップ: 最近、発表になった次期アンドロイドOSの名前をキットカットとするパートナーシップ。思いつきで始まったというこの企画、ネスレとグーグルの間には資金のやりとりが全くないながら、このニュースでネスレは大きくEarned Mediaのインプレッションをとることとなりました。 Tweeted Bra企画: Maria Bakodimouというギリシャ人タレントがブラを外すたびに、毎月の乳ガンチェックを促すツイートが自動的に出るというもの。このブラ自体は非売品らしいので、この企画は純粋にEarned Media獲得のためのCause Marektingです。最近かなり記事になっていたので、成功といえるでしょう。 3)顧客の声を聞く:Digital Acceleration Teamのグローバル展開 ネスレが何よりも力をいれているのが、顧客の声を聞くということ。 そもそもネスレがデジタル化へと舵をきった出発点がソーシャルメディア上でのバッシングにあったという背景からして、これは必須でした。 具体的に行った大きな改革は、DAT(Digital Acceleration Team)を設立したこと。右がスイスにあるそのDATオフィスの様子です。世界中から毎年12名の優秀なリーダーをここに集め、8ヶ月間の集中トレーニングを行うというものです。ここで、チームプロジェクトを通して、ソーシャルメディアでリアルタイムに顧客の声を聞く方法や、ソーシャルメディアをCRMに活かす方法、Earned Media獲得のためのキャンペーンの立て方など、デジタルマーケティングに必須の知識を徹底的に教え込んだ後、各地へ帰します。 たとえ一時、ソーシャルメディア上でのバッシングにショックを受けても、その危機感をグローバル企業が全社的に持ち続けるというのは簡単なことではありません。「うちの会社、そんなことあったよね」で終わってしまうことが多いのです。しかし、ネスレでは各国のオフィスに、「顧客の声を聞く」カルチャーがしっかりと根ざすように、このDATを設立したのです。 4)Rapid Scaling of Knowledge 日本語にすると、「ナレッジの急速な横展開」 社内で良いラーニングがあればどんどん周りに共有できるような環境を整えるということです。具体的には、Youtubeの社内版であるDigiTube、社員にBlogを推進、Chatterでのコミュニケーションを促進するなどです。 ネスレはまさに、外部へ目を向けるだけでなく、内部のIT化も同時に進めたのです。 通常、外資の消費材企業だと、国を超えブランドを超え知見の共有をするためにトレーニング制度を強化することが一般的です。しかし、このようにITインフラ強化をすることで、それよりも早いスピードで知見を拡散することができるのです。 しかも私が驚いたのはその指標化。誰がどのくらい活発に社内ソーシャルメディアを活用しているかを計り、その指標を評価に活かすとのこと。社内ソーシャルメディアといった類いのものは、ここまでして初めて実用化されるのではないでしょうか。まさに、ネスレの覚悟が強く現れています。 まとめ 通常、カンファレンスでは「こんなことをしたらうまくいった」といったキャンペーンやデータ取得の事例が話されることが多いように思います。 しかし、本当に大事なのはひとつひとつの戦術よりも、その成功を続けて繰り返すスキルがあるかどうかという再現性。組織として、継続的に成長できる土台を作ることができるかどうかが、将来に差を生むのです。 Peteの話から、ネスレは、いかに社内にデジタルを根付かせるかを本気で突き詰め、カルチャー、プロセス、リソースに投資しているのだと感じました。まさに再現性のあるスキル作りにコミットしているのです。 今、どれだけの日本企業がここまでの覚悟で組織的にデジタルを活用すべく動いているのでしょうか。ネスレが透明性をもって手の内を明かし、自分たちのデジタル化の秘訣をシェアしてくれているのですから、ここから学ばない手はないでしょう。 (事後加筆)早速、アドテックNYのサイトに当日の動画がアップされていました。興味のある方は、少し長いですが全編見てみてください。 Photo: taken by Teruhiko Miura Tweet Author: Kazuyo Nakatani 中谷和世 Kazuyo Nakatani: 音楽大学声楽科卒業後、留学斡旋企業の営業/マーケティングを担当。その後、USへ渡り2007年にミシガン大学MBA取得。2007年〜2012年P&GにてSK-IIのマーケティングに従事する。うち3年はシンガポールに駐在。現在は東京在住、オンライン動画配信ビジネスのMarketing Directorを勤める。 Prev Blog Next 2013年11月15日
アドテックNYレポート:ネスレのデジタル先進企業への変革
11月6日–7日にNew Yorkで行われたアドテックNYに参加してきました!
ニューヨークのアドテックは、今回が初参加。本場のデジタルマーケティングは日本よりも2−3年進んでいるとの評判から期待して行ってきましたが、実際予想を上回る迫力でたくさんの刺激的な学びがありました。
まだまだ興奮が覚めやらぬ状態ですが、私の感動を少しでも伝えたいと思い、まずはレポート第1弾をお届けします。
今回、特に楽しみにしていたのは、オープニングキーノート「ネスレのデジタル企業への変革」。
スピーカーはGlobal Head of Digital & Social MediaのPete Blackshaw氏、2011年にネスレがデジタル化へ大きく舵を切ること託されて採用された人物です。
ネスレのデジタルは、失敗からスタートした
今や、デジタルキャンペーンで数多くの成功事例を出しているネスレですが、実は意外な事に、Peteが採用される直前、ネスレはSocial Mediaで事件を起こしています。
みなさん、覚えていますか?2010年にNGOグリーンピースがネスレの環境破壊を批判した事件を。キットカットがパームオイルを使用している事実をついた動画を拡散させ、大炎上を起こしましたよね。
それに対して、都合の悪いその動画を無理やり消去しようとし、ネスレはSocial Media上で大バッシングに合いました。従来であれば、このような対応をするのは、常識的なことでした。社内の法務部門、広報部門がリスクを評価し、沈静化させるべきであるという意思決定のもと、動画をけすためのアクションを取ったのです。しかし、透明性が求められるソーシャルメディアの時代には、この事実を隠そうとする姿勢が、消費者の批判の的になり、更なる炎上を生んだのです。
まさにこの事件のダメージが、ネスレにデジタル企業へと方向転換を決意させるきっかけとなったのです。
ネスレをデジタル先進企業へと導いた「Nestle Way」
現在、1.8億人のFacebookファンをかかえ、毎日1500以上のコンテンツをSocial Mediaに出すデジタル先進企業となったネスレ。この2年間、Peteがどのようにしてリードしてきたのか、興味津々で聞きました。
彼の主張によると、それを可能にした「Nestle Way」は以下の4つだということでした。
1)Fundamentals are fundamental
「Fundamentals」とは何なのか、あえて、日本語に訳すと、「初心忘るべからず」。マーケティングの基本からぶれないようにしようということです。右のスライドにあるその基本とは、以下の6つのポイント。
一見マーケターにとっては当たり前に見えるこれらのポイントですが、私にとっての驚きは、最初にデジタルマーケティングとは必ずしも関係のないこの基本をもってきたことです。私も日々感じているジレンマですが、デジタルマーケティングの戦術に気をとられ、本来のマーケティングが忘れさられてしまっていることがとても多いと思います。
メッセージを伝える相手は誰なのか、その人たちの深いインサイトは、どのようなブランド体験を届けたいのか。それらを明確化しないでCTRやインプレッションばかりを追うことに何の意味があるのでしょうか?
デジタルマーケティングやソーシャルメディアに全精力を傾けフォーカスしていると、得てして基本を忘れてしまう・・・おそらくネスレでもそんなことがあったのでしょう。だからこそ、あえてデジタル化を進める中でもマーケティングの基本を忘れないようにしようというメッセージを発しているのだと解釈しました。
2)Paying Less, Earning More
右の図をご覧ください。水色の円は、Paid Mediaを、緑はOwned Mediaを、紫はEarned Mediaを表しています。
左の円に示される従来のメディアバランスは、Paid Mediaが多く、広告枠を買いブランド露出をはかるというものでした。一方、昨今では右の円のように、Paid Mediaが減りその他の割合が増えています。
つまり、TVCMやバナーなどの広告を消費者が信用しなくなり、むしろ口コミやPRなどの情報がより購買に影響を与えるようになってきています。ネスレは、その流れに合わせて、リソース配分を見直しているということです。
Zero Paid Mediaという衝撃的タイトルの本がでたように、今や必要とされているコミュニケーションチャネルがどんどん変化しているのです。
Paid Mediaを減らしEarned Mediaを増やす試みとして紹介されたネスレの事例が以下。
Kit Kat x Androidのタイアップ:
最近、発表になった次期アンドロイドOSの名前をキットカットとするパートナーシップ。思いつきで始まったというこの企画、ネスレとグーグルの間には資金のやりとりが全くないながら、このニュースでネスレは大きくEarned Mediaのインプレッションをとることとなりました。
Tweeted Bra企画:
Maria Bakodimouというギリシャ人タレントがブラを外すたびに、毎月の乳ガンチェックを促すツイートが自動的に出るというもの。このブラ自体は非売品らしいので、この企画は純粋にEarned Media獲得のためのCause Marektingです。最近かなり記事になっていたので、成功といえるでしょう。
3)顧客の声を聞く:Digital Acceleration Teamのグローバル展開
ネスレが何よりも力をいれているのが、顧客の声を聞くということ。
そもそもネスレがデジタル化へと舵をきった出発点がソーシャルメディア上でのバッシングにあったという背景からして、これは必須でした。
具体的に行った大きな改革は、DAT(Digital Acceleration Team)を設立したこと。右がスイスにあるそのDATオフィスの様子です。世界中から毎年12名の優秀なリーダーをここに集め、8ヶ月間の集中トレーニングを行うというものです。ここで、チームプロジェクトを通して、ソーシャルメディアでリアルタイムに顧客の声を聞く方法や、ソーシャルメディアをCRMに活かす方法、Earned Media獲得のためのキャンペーンの立て方など、デジタルマーケティングに必須の知識を徹底的に教え込んだ後、各地へ帰します。
たとえ一時、ソーシャルメディア上でのバッシングにショックを受けても、その危機感をグローバル企業が全社的に持ち続けるというのは簡単なことではありません。「うちの会社、そんなことあったよね」で終わってしまうことが多いのです。しかし、ネスレでは各国のオフィスに、「顧客の声を聞く」カルチャーがしっかりと根ざすように、このDATを設立したのです。
4)Rapid Scaling of Knowledge
日本語にすると、「ナレッジの急速な横展開」
社内で良いラーニングがあればどんどん周りに共有できるような環境を整えるということです。具体的には、Youtubeの社内版であるDigiTube、社員にBlogを推進、Chatterでのコミュニケーションを促進するなどです。
ネスレはまさに、外部へ目を向けるだけでなく、内部のIT化も同時に進めたのです。
通常、外資の消費材企業だと、国を超えブランドを超え知見の共有をするためにトレーニング制度を強化することが一般的です。しかし、このようにITインフラ強化をすることで、それよりも早いスピードで知見を拡散することができるのです。
しかも私が驚いたのはその指標化。誰がどのくらい活発に社内ソーシャルメディアを活用しているかを計り、その指標を評価に活かすとのこと。社内ソーシャルメディアといった類いのものは、ここまでして初めて実用化されるのではないでしょうか。まさに、ネスレの覚悟が強く現れています。
まとめ
通常、カンファレンスでは「こんなことをしたらうまくいった」といったキャンペーンやデータ取得の事例が話されることが多いように思います。
しかし、本当に大事なのはひとつひとつの戦術よりも、その成功を続けて繰り返すスキルがあるかどうかという再現性。組織として、継続的に成長できる土台を作ることができるかどうかが、将来に差を生むのです。
Peteの話から、ネスレは、いかに社内にデジタルを根付かせるかを本気で突き詰め、カルチャー、プロセス、リソースに投資しているのだと感じました。まさに再現性のあるスキル作りにコミットしているのです。
今、どれだけの日本企業がここまでの覚悟で組織的にデジタルを活用すべく動いているのでしょうか。ネスレが透明性をもって手の内を明かし、自分たちのデジタル化の秘訣をシェアしてくれているのですから、ここから学ばない手はないでしょう。
(事後加筆)早速、アドテックNYのサイトに当日の動画がアップされていました。興味のある方は、少し長いですが全編見てみてください。
Photo: taken by Teruhiko Miura