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リークされた極秘レポートに見るニューヨークタイムズの危機感(2)


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前回記事:リークされた極秘レポートに見るニューヨークタイムズの危機感(1)

前回記事のサマリー:5月中旬にニューヨークタイムズからリークされ、その内容に業界が騒然となった極秘レポート。会長の息子率いるチームが97ページにこめたその詳細なレポートには、ニューヨークタイムズの強烈な危機感が示されていました。メディア業界に破壊的イノベーションを起こしつつある12の競合を、脅威とみなし、彼らに存在を脅かされるつつあることをレポートは訴えています。

 

NYTのとるべきアクションとは?

ニューヨークタイムズ(NYT)は、競合に対抗するために何をすべきなのか・・・。第2弾では、崖っぷちに立たされているNYTが、イノベーターに飲み込まれる前にとるべきアクションをお伝えします。

オリジナルレポートの濃さから、かなりの長文記事となってしまいましたが、とても重要なので、ぜひお付き合いください。

1)何よりもまず、大至急、読者を育てよ!

Screenshot 2014-06-05 20.17.59

近年、ホームページの存在価値がどんどん低下しています。実際、図が示すように、NYTのホームページPVは2011年から転げ落ちるように減り続け、たった2年の間に半分にまで減少しています。

 “今や、NYTのホームページに来たことがあるのは読者のたった3分の1。(中略)しかも、PVも滞在時間も昨年は二桁%の減少だった。(レポートp.24)”

これは、NYTがデジタル時代の常識を身につけることなくずるずると運営してきた結果ではないでしょうか。

デジタルでは、より積極的に自分たちから読者を獲得しにいかないと、待ちの姿勢では読んでもらうことさえもできません。

一方、NYTがずっと拠り所にしてきたのは、紙媒体の常識です。今までは、良い記事を執筆することにだけ集中していれば良かったのです。そうすれば、記事が読んでもらえ、自然と読者の間に広まっていったのです。

この根本的な価値観をデジタル時代に合わせ変えていかないと、下降曲線に歯止めがかからない、とレポートでは警告しています。そのための施策として、具体的に提案されているのが以下です。

 

▶︎ 過去記事の掘り起こし

今日起きた事件を今すぐ知ることに意味のある情報もあれば、映画や博物館のレビューのように、いつまでもその価値を失わない情報もあります。それをいかに掘り起こし、新しく演出し直し見せていくか、そういった努力がNYTには足りなかったのではないかというのです。

“私たちは、日々の新聞であると同時に図書館でもあるべきだ(レポートp.28)”

実際、バレンタインデーをテーマに過去の動画まとめをしたり、人身売買のテーマで記事まとめを特集するのも、効果のある取り組みでした。後者に至っては、46.8万PVを6日間で達成するなど、なかなか簡単には達成できない数字を叩き出しています。(レポートp.34-35)

Screenshot 2014-06-09 14.00.23NYTの「方言クイズ」(「こういう時なんて言う?」的クイズに答えていくと自分の言葉の地域がわかるという特集)は、2100万PVをたたき出した人気特集でしたが、そういった特集のテンプレートを再現するというのも、掘り起こしのひとつです。(レポートp.36)

今まで、NYT社内では、こういった過去の焼き直し的企画はあまり評価されない傾向にあったようです。どちらかというと、ゼロから企画し長期リサーチを経て、気合いの入ったオリジナル特集を書き上げることが、記者のプライドでもあるのでしょう。

しかし、今あるものをうまく再利用して、過去の成功体験を再現するというのは、むしろ評価されるべきことなのではないか?とレポートは投げかけているのです。

こういった効率よく再現性あるモデルを重んじるのは、ビジネス的観点からは当たり前、でもプライドをかけて執筆している側からすると、難しい価値観の変革なのだと思います。

▶︎ 求められるのは、パーソナライゼーション

今やユーザーは、自分の興味のあることを先回りして勧めてもらえることを期待しています。日本でもグノシーが、各自の興味にあった記事を出すプラットフォームを提供しているように、これは最近のトレンドです。こういったパーソナライゼーションを可能にするアルゴリズムの開発は急務で、しかもそこには編集サイドの専門性が反映されているべきなのです。

興味あるトピックを簡単に追えるフォロー機能も重要です。実際、そういった機能を、CircaBreaking NewsVergeなどはどんどん充実させてきています。

また、記事のタグ付けに労力を割けていない現状もあります。もちろん、タグ付けはセクシーな仕事ではないけれど、これを正確にしないと、読者にフォロー機能を提供することも、オススメ記事を出すことも、関連記事を出すことも、何ひとつ満足いく精度ではできないのです。(レポートp.41)

▶︎ リーチを高めるプロモーション

レポートは、NYTがソーシャルメディアを全く使いこなせていないことを、厳しく指摘しています。1年以上も制作にかけた特集「インビジブルチャイルド」の出してから、それを知らせるツイートをするまでに2日間もかかっとのエピソードは、ソーシャルメディアの重要性を理解していないことが伺えます。

“ソーシャルメディア経由で訪れる割合は、NYTではわずか10%。(60%もある)BuzzFeedとは6倍もの開きがあります。(レポートp.43)”

NYTがソーシャルメディアを全く使いこなせていないことを考えると、当たり前ではありますが、この6倍の開きはゾッとするほどです。

Screenshot 2014-06-09 13.06.16伝統的メディアであるProPublicaでさえも、記者は記事とともに5つのツイートを出し、編集者は記事ごとにソーシャルメディア戦略をたてるミーティングを開いているとレポートは報告しています。(レポートp.43)NYTもソーシャルメディアリテラシーを立て直す必要があります。

ソーシャルメディアのコアファンの割合も、NYTの遅れを語っています。

図が示すのは、Facebookファン数に占める「イイね」等をしてくれるコアファンの割合です。NYTのファン合計数が比較的多いことは評価すべきですが、

全体にしめるコアファンの割合はHaffington Postの52%に対し、NYTはわずか5%です。

例えば、Haffington Post では、写真・サーチのためのヘッドライン・ツイート・Facebook投稿が揃っていないとそもそも記事を公開できない仕組みになっています。(レポートp.44)そういった、リーチを高める仕組みをNYTも考えるべきでしょう。

 

▶︎ 読者とのつながりを作る

“(NYTでは)コメントを書いているのは読者のたった1%、コメントを読んでいるのは読者のたった3%。(レポートp.49)”

NYTの読者層は学識のあるレベルの高い人たちだと言われているにも関わらず、その読者の力を活かしきれていません。97%の読者はコメントなんて書いたことも読んだこともないのです。

読者と積極的につながりを持とうとするNYTジャーナリストもいますが、そのやりとりはNYTではなくFacebookでなされてしまっているのです。

そんな状況を変え、もっと巻き込み型のメディアになるために鍵となるのは、読者によるコンテンツ制作とイベント。実際、Haffington PostMediumは読者によるコンテンツで大きな成長をとげてきました。一方で、NYTの読者は学識者が多いにも関わらず、NYT側がそれを最大限活かしきれていません。(レポートp.51)

TEDまた、TEDのようなイベントを本格的にやるのは、収入の面からもエンゲージメントの面からもプラスでしょう。

実際、TEDのエグゼクティブは、NYTのようなメディアが「本物の」カンファレンスを始めてしまうことが最も脅威だと言っているそうです。そんな大きなビジネスチャンスを、NYTは逃しているのではないかというのです。(レポートp.53)

 

2)編集室の組織強化を!

とはいえ、そういった具体的なアクションプランも組織力が伴わなければ、いつまでたっても「こんなことができればいいのに」で終わってしまいます。まさにこのレポートは、そこにも切り込んで提案をしています。

▶︎ ビジネス部門との協力

Screenshot 2014-05-29 19.37.36今までは、編集室は質の高い記事を仕上げることにフォーカスし、ビジネス部門は流通や広告収入を担ってきました。

しかし、それではダメだとレポートは訴えています。今は状況が違うのです。

ソーシャルメディアでの拡散や、インタラクティブなコミュニケーションの求められる今では、ビジネス部門に任せっきりだったことに一緒に取り組まなければ、読者がついてきません。

そこで提案されているのは、図のような組織。まさに、消費者インサイト、テクノロジー、デジタルデザイン、R&D、プロダクトの部分は編集室も関わっていこうということなのです。(レポートp.61)

まさに、「読者の体験」を中心に考え、働き方をかえることを提案しているのです。

 

▶︎ 編集室に戦略チームを作る

“(編集室では)戦略を立てるという仕事からは身を引きました。(中略)編集室はビジネス部門の全力疾走に引きずられているんです。(レポートp.72)”

目の前の執筆に毎日追われていると、中長期的に何をすべきか考える余裕は生まれません。では、編集上の戦略はどうするのか?

なんと、編集室のリーダーたちは、元NYTimes.comの編集者だったRich Meislinにアドバイスを頻繁に仰ぎにいくそうです。また、ジャーナリスト同士の横のつながりにより、競合が試してうまくいったことを取り入れることが多いというのです。(レポートp.73)しかし、その繰り返しでは、NYTオリジナルの編集戦略や優先順位付けは不可能でしょう。

外部に戦略をゆだねるのではなく、編集室で編集上の戦略を立てる部門を確立しないといけないというレポートの主張はもっともです。

▶︎ 真にデジタル・ファーストの文化を作る

Screenshot 2014-06-09 13.00.23まだまだ紙媒体が中心に考えられているマインドセット自体が、何より大きな問題だとレポートでは指摘しています。

未だに、NYTでは、紙媒体からの広告収入が全体の4分の3を占める上、社内でのキャリア構築で意識されているのは、紙媒体でのステップアップ。

記事を公開する時間や曜日にしても、紙で最も購読されるタイミングが前提で、デジタルのトラフィックの波は意識されていません。(レポートp.86)

こういったカルチャーが変えていくためには、やはり人材が鍵でしょう。NYTの編集室では、デジタル分野の人材にはあまり魅力的なキャリアパスが用意されていない、そもそもシニアポジションにデジタルのわかる人材がいない、と指摘されています。(レポートp.89)

社内でデジタルのできる人材を昇進させるよりも、むしろ、リーダーシップポジションに外部から抜擢するべきだとレポートは提案しています。「スター採用」をすれば、そのスターが同じ志をもった人をNYTに引き込んでくれるはずなのです。(レポートp.91, 96)

このレポートがリークしたのも、NYTが変わる覚悟があること、そして変革できる人材を求めていることを、外部に知らしめたいと思った人がいたからなのかもしれません。

 

まとめ

正直、私はこのレポートをみて、NYTの危機感に感銘を受けました。

レポートが提案する、一つ一つのアクション自体は、一見「よく聞く話」ですが、その中で語られるNYTの現状を示すデータや、彼らの「取り残されている感」、そしてそれを直視する勇気と覚悟がかいま見えるところが、このレポートのダイナミックさでしょう。

他業界でも、似たような境遇にある巨大な既存プレイヤーが、環境の変化に順応する謙虚さを持ち合わせていないがために沈んでゆく様を、近年、何度、目にしたことでしょうか。

書店、旅行、写真フィルム、郵政、音楽、動画・・・様々な業界で似たような変化が起きています。そんな中、現実を直視することができない企業が数多くあります。客観視できる第三者からすると、世界によるデジタル化によって既存のビッグプレイヤーが苦境に立たされている状況は明白でも、当事者がその事実を受け入れるのは感情的にとても難しいはずなのです。

それを謙虚に受け止め、覚悟を決め、ここまで踏み込んだアクションを(オフィシャルではないにしろ)外部に曝すNYTの勇気を、私は心から応援したいと思います。

5年後、10年後に、デジタル時代に合わせ手法を変えたNYTが、読者に愛され生き長らえていることを、祈ります。

 

参考:オリジナルレポート The Full New York Times Innovation Report
 (上記記事は、意訳や私の個人的解釈を含みますので、内容を厳密に理解したい方はこちらをご参照ください。)


トップ写真:Flickr Creative Commons画像 (http://www.flickr.com/photos/sarihuella/4670044378/)
TED写真:Flickr Creative Commons画像(http://www.flickr.com/photos/tedconference/7455450354/in/set-72157630297724728/)

 

 


Author: Kazuyo Nakatani 中谷和世 Kazuyo Nakatani: 音楽大学声楽科卒業後、留学斡旋企業の営業/マーケティングを担当。その後、USへ渡り2007年にミシガン大学MBA取得。2007年〜2012年P&GにてSK-IIのマーケティングに従事する。うち3年はシンガポールに駐在。現在は東京在住、オンライン動画配信ビジネスのMarketing Directorを勤める。