Brightcove PLAY 2014

ネットメディア編集長に聞く動画の課題


Brightcove PLAY 2014

5月30日(金)に開催されたBrightcove主催のPLAY2014という、一日中動画トピックに浸るカンファレンスに行ってきました。

中でも最も印象的だったのが、「動画化するネットメディア」というセッション。

日本では、動画をつかったメディアというのは、まだまだこれからという中、いち早く動画メディアを立ち上げ実績をつんでいる以下の顔ぶれによるパネルディスカッションでした。

  • 東洋経済オンライン編集長の佐々木紀彦氏(パネリスト):1ヶ月前に東洋経済オンラインの動画サイトをオープン。
  • ハフィントンポスト日本版編集長の松浦茂樹氏(パネリスト):昨年5月ローンチしたハフィントンポストは、1年で月1000万UU突破。
  • 日経ビジネスチーフ企画プロデューサーの柳瀬博一氏(モデレーター):日経ビジネスオンラインで、2008年よりコンテンツ型企画広告を実施。

まずは、話の中で、でてきた各社のケーススタディを紹介しましょう。(それぞれの画像から動画のサイトへとんで再生できます)

各社の動画ケーススタディ

ケーススタディ① 東洋経済オンライン

東洋経済オンライン動画サイトオープン以来、中でも成功したコンテンツとして、きゃりーぱみゅぱみゅを仕掛けたマネジャーのインタビュー動画が紹介されました。

動画の中で評判の良いものは3万〜4万の再生回数、あまり見られていないものはたった数百回と、かなりのぶれ幅があるといいます。そんな中、この動画は、イイね数1,645という成功を収めています。

制作は、東北新社の「情熱大陸」を手がけているチームによるもの。TV制作に精通しているチームの作品だけあって、作り込まれた編集や高級感あるテロップなど、クオリティの高いものとなっています。

ケーススタディ② ハフィントンポストUS

ハフィントンポスト・ライブ USハフィントンポストは日本ではまだ動画ページを開始していませんが、USではハフィントンポスト・ライブというページで長編のライブストリーミングを流しています。

SkypeやGoogleハングアウトを使用して、ブロガーへインタビューし、DJが話を引き出すという構成です。

時には有名人のインタビューもあり、先日はダライ・ラマのライブインタビューがロスのスタジオで行われ、日本でもライブストリーミングされたそうです。

ケーススタディ③ 日経ビジネスオンライン

東洋経済オンラインスポンサーのつく企画広告記事として、池上彰による特集を、TV東京の「ジパング」制作チームと組んで行った動画が紹介されました。

TV東京チームがTV番組制作のために海外ロケをする際、日経ビジネス用の動画も合間にとってもらうという契約になっているそうです。

TV制作とセットで撮影するという方法をとった結果、質の高い特集記事と動画を作れるようになり、視聴者の平均ページ滞在時間は10分以上(!)と、広告としてはかなりエンゲージメントの高い結果につながったということでした。


 

これらの各社ケーススタディを通して、今、何が課題なのか、熱い議論が交わされました。中でも、個人的に面白いと感じたポイントをまとめます。

動画制作はTV番組とのバンドル化が鍵

Brightcove PLAY 2014いかに効率よく質のいい動画をつくれるか、というのは大きな課題です。

東洋経済の佐々木氏いわく、記事であれば1本数万円前半でつくれるものが、動画の場合は制作費が高くつくため、あたるかはずれるかわからないまま量産することができないのが悩みだそう。

そこで、例えば、ケーススタディで紹介したきゃりーぱみゅぱみゅ動画の制作では、今後の収益モデルも一緒に模索するという前提の実験的取り組みとして、東北新社に比較的低コストでの制作をお願いしているということでした。(注:東洋経済オンラインの動画全てが東北新社によるものではないそう)

日経ビジネスの柳瀬氏も、TV局の番組制作チームとのコラボを前向きに語っていました。池上彰の特集でも、「ジパング」と同じロケの中で日経ビジネス用の素材を撮影し、ベースの固定費を押さえることに成功しているそうです。

ここに至るまでに、過去、日系ビジネスでは動画制作をコストも抑え内製化しようとしたところ、出来上がったもののクオリティがあまりにも低かったという失敗経験があるという話でした。そこから、模索した結果、TV制作チームと組むという方法にいきついたということ。結果、クオリティの高い動画を作ることができるようになったそうです。

逆に、ハフィントンポストでは、TV制作に関わっている人材を採用し(Roy Sekoff氏をTV制作の世界から引き抜いています)、社内で編集できる組織を作っているとのこと。編集スタジオもTV制作と遜色ないものを自社保有しているという話でした。ハフィントンポスト日本版での動画展開はこれからですが、同じように、TV制作に経験のある人材のノウハウを取り込めるよう、TV経験者(特に20-30代の若い人材)の採用を積極的に考えているとのことでした。

 

まずは、ストック型動画で実績を

Brightcove PLAY 2014佐々木氏の話の中で面白かったのは、このポイント。

本来、東洋経済としては、記者が会見の場に行き生中継をするといった報道系の動画を制作したいという思いがあるそう。

とはいえ、そういった動画はスタジオや人員などに、かなりのリソースがかかります。報道系の動画コンテンツは、たとえ膨大にリソースをかけて制作しても、1-2日ですぐに価値がなくなってしまうフロー型。

どういった動画がウケるのか、成功のポイントがつかめるまでは、フロー型動画に一気に突き進むよりも、まずはずっと見続けてもらえるストック型の動画で実績を積み、マネタイズの仕組みを作ることが重要だったといいます。

まさに、その例が上記のきゃりーぱみゅぱみゅの動画。アーカイブとして、いつまでも長く視聴されるストック型から始めるのは、動画制作のリソースやマネタイズの観点から、あえて戦略的にしたチョイスだったようです。

柳沢氏いわく、日系ビジネスオンラインでも、池上彰特集の動画は、その後、広告主(この場合JICA)のオウンドメディア上でアーカイブされ、ストック型として長く視聴されているとのこと。

 

課題は、流通とマネタイズ

Brightcove PLAY 2014まず第一の課題は、どうリーチさせていくのか。

確実にうまくいく拡散や動画への誘導ルートが、まだまだ定着していないというのが、今後のラーニングが求められる点。

そして、もう一つの課題が、どうマネタイズするのか。

記事と比べて、より制作費も手間もかかる労働集約型の動画を使って、稼げるシナリオを作っていくことができるのか、少なくとも今は、それがまだ見えてないということでした。

今はまだ、「期待値」で動画に投資がされていますが、今後は実績を出していかないと動画活用の流れは続かないだろうとのこと。いち早く動画を使ってのトライ&エラーを積んでいる編集長だからこその実感なのでしょう。

動画を活用したメディアを軌道にのせるのは、周囲の期待も大きいだけに、プレッシャーもあるようです。


Author: Kazuyo Nakatani 中谷和世 Kazuyo Nakatani: 音楽大学声楽科卒業後、留学斡旋企業の営業/マーケティングを担当。その後、USへ渡り2007年にミシガン大学MBA取得。2007年〜2012年P&GにてSK-IIのマーケティングに従事する。うち3年はシンガポールに駐在。現在は東京在住、オンライン動画配信ビジネスのMarketing Directorを勤める。