Time for 3D Print

3Dプリンターが飛躍するために克服すべき7つのハードル


 

3D Print Market Growth最近、注目を集めている3Dプリンター、ここ数年の3Dプリンターマーケットの伸びは二次曲線的に伸びており、今後も年率20-30%で成長し続けると言われています。2020年には1兆円規模にまでマーケットが拡大すると言われています。

今回は、3Dプリンターが、今後さらなる飛躍を遂げるために、超えるべきハードルをまとめてみました。

 

 

1)3Dプリンターは高い!

Stratasys Objet500やはり3Dプリンターを購入する初期コストは、まだまだ大きな負担です。

もちろん安いモデルのパーソナル3Dプリンターは$200程度から販売されています。Kickstarterでは$100の3Dプリンターまで出ました。

しかし、ちょっと単色でフィギュア作ってみたら表面がちょっとギザギザ・・・なんていう私の体験談レベルではなく、もっと本格的に、解像度の高いレーザー焼結という手法を使ったプリンターでもっと精巧に何かを作ろうとしたら、プリンター自体の価格は何百万円としてしまうのです。

しかも、工業用3Dプリンターなんて何千万円もするのです。右の写真はStratasys社のObjet500ですが、なんと7000万円するということでした!

そんな、まだまだ高価な3Dプリンターもここ数年で値下がりしてくると言われています。

2009年に3Dプリントの数ある手法のひとつであるFDMの特許が切れ、どんどん安いパーソナル3Dプリンターがでてきました。そして、2014年1月には、工業用3Dプリンターにメインに使用されているレーザー焼結の特許が切れています。これにより、より機能的なレーザー焼結の3Dプリンターが、安くなってくるのではと言われています。期待したいですね!

 

2)精度(つまり解像度)が低い

3D Print Resolution手軽に使えるパーソナル3Dプリンターは、まだまだ仕上がりが荒いのが実状です。

もちろん、なめらかに出力できる性能の良い3Dプリンターは高いわけで、現状まだまだ、手軽で高性能な3Dプリンターというわけにはいかないのです。

右上の写真がMakerBot社のDigitizer 3D-scanned Laser Catという3Dプリンターを使い、異なる解像度で同じものを出力したものです。左から0.02 mm、0.20 mm、0.30 mmの解像度ですが、解像度の低いものは横に荒い線が入っているのが一目瞭然ですね。

解像度が0.1mm以下となると、かなりなめらかな表面になるのですが、数十万レベルで購入できるパーソナルプリンターだと、解像度はほとんどが0.1mm以上です。0.0xレベルの解像度を求めるなると、プリンターの価格は一気に跳ね上がるし・・・という悩ましい状況なのです。

 

3)印刷スピードが遅い

Time for 3D Printとにかく、お・・・そ・・・い・・・。私が、親指の第一関節までよりも小さいフィギュアを作ったとき でさえ、15分もかかりました。

それもそのはず、3Dプリンターのメカニズムは、作りたい物体を0.1mmほどの薄さのスライス状にし、それを1枚1枚足下から樹脂を固め積み重ねるという作業を繰り返して仕上げていくやり方です。

解像度を上げる、つまりスライスの厚さをさらに薄くすると、当然出力するのにもっと時間がかかってしまいます。

右の写真にある8cm程度の大きさの物体をプリントするのにかかった時間が、左の解像度0.27mmのもので1時間、右の解像度0.12mmのものでなんと4時間(!)ということです。待ってられません・・・。

その上、かかる時間は実際プリントアウトにかかる時間だけではないのです。3Dファイルをプリンターに読み込ませると、結構エラーがでます。そのエラーを直していく手作業にも時間がかかるのです。

3DプリントをしてくれるShpewaysのようなマーケットプレイスでは通常3−5日この作業に時間をとっています。(これを手作業ではなく、自動化するテクノロジーの特許を持っており、時間短縮に成功しているSculpteoのようなマーケットプレイスもあります。)

しかも、3Dプリントした後、まわりをくるんでいるサポート材(重力による落下や変形を防ぐため、出力したい物体の周りをサポートする材質)を除去する時間も必要だということを考えると、まだまだ量産ができるほどのスピード感は達成できていないのが現状です。

 

4)複数の素材を使っての3Dプリントは希少

Multi-material 3D Print現状、3Dプリンターで扱える素材は、意外に多岐に渡ります。いろいろな種類の樹脂(アクリル・ナイロン)に加え、プラスチック、ゴム、金属(ステンレススチール・シルバー・チタン・ブラス・ブロンズ等)、セラミック、石膏、などなど。

ただ、ほとんどの3Dプリンターでは、未だ複数の素材を組み合わせたプリントアウトはできるようにはなっていません。

今年1月にStartasysから複数素材を同時に出力できる初の3Dプリンターが発売されました。まさに右の写真のようなものが一気にプリントできるというプリンターです。しかし、7,000万円(小売価格5,500万+メンテナンスサポート代)というお値段!まだ、一般普及のためのものではありません。

すでにいくつかのパーソナル3Dプリンターでは複数カラーでのプリントを実現しているので、複数の素材からなるものも、簡単に3Dプリンターで仕上げられると誤解している方も多いと思いますが、実際にはカラーを混ぜることはできても、素材は1素材しか使えないことがほとんどなのです。

 

5)CADスキルが必要

3D Print CAD3Dプリンターで使う設計図は3D CADや3D CGと呼ばれるソフトウェアで作成します。

もちろん、趣味レベルであればiPadなどに入れられる簡単に扱えるアプリでデザインしたものでも3Dプリントできるのですが、本格的な精度を求めるとこれらのソフトウェアを使うことになります。

この3D CAD・3D CGを扱える人材がまだまだ不足しているというのが実状のようです。

 

6)拡張子の変換からくるエラー

少しマニアックな話の聞きかじりですが・・・笑。

大きく分けて3Dプリンターのための拡張子はメジャーなSTL、色データやテクスチャーがついているデータはOBJで出力できます。拡張子の種類はたくさん有りますが最もメジャーな拡張子はSTLです。続いてOBJ、3DS、STEP、IGES、PLY、VRML・WRML、3DPといった種類があるそうです。

基本的にはそれぞれ異なる拡張子で3Dモデルを作ってもそれぞれ出力する側のプリンターがそれに対応していないので拡張子の変換が必要になります。

ただ、STLに変換する際にエラーがもともとあったり、STLへ拡張子を変換する前はエラーが無かったのにSTLへ拡張子を変換した後にエラーが出てしまったりすることがあるとのこと。ソフトによっては認識してくれない拡張子があったり、色データが付いているはずなのに認識しなかったり・・・まだまだ、手軽に扱うには課題が山積みのようです。

 

7)法的な整備(特に著作権)が急務!

Drug & Gun何よりも最も重要なのは、著作権です。IT系調査会社のガートナーによると、3DプリンターによるIP侵害のグローバルでの被害額は2018年で10兆円にものぼるとのことです。

スキャンをして取り込んだ3Dモデルを出力して同様のものを作ってしまったら、その著作権は誰のものになるのでしょうか?また、3Dデザインを作ったけれど全ての権利を放棄したくない場合、どうコントロールすれば良いのでしょうか?

著作権を守るために、3Dデザインをユーザーがダウンロードするのではなく、そのサイトにアクセスして直接プリントするという仕組みを持つFabiloniaAppalosaといったマーケットプレイスも出てきています。

また、低ポリゴンのものをフリー素材としてダウンロードさせ、高ポリゴン(電子透かし入り)のものを有料で販売するなどの手法も編み出されているようです。

また、著作権だけでなく、3Dプリンターの普及によって、銃/武器、ATMピッキングの道具、ドラッグ、などが作られることも懸念されています。

 

どうでしょう?3Dプリンターの抱える課題もまだまだ大きいながら、移植可能な臓器や食物を作り出すための3Dプリンター技術も進んでいますし、これから何ができるようになるのか、これからの3Dプリンターの発展にワクワクしますね!

 

参考:https://www.flickr.com/photos/jabella/ http://3d-printers.toptenreviews.com/


Author: Kazuyo Nakatani 中谷和世 Kazuyo Nakatani: 音楽大学声楽科卒業後、留学斡旋企業の営業/マーケティングを担当。その後、USへ渡り2007年にミシガン大学MBA取得。2007年〜2012年P&GにてSK-IIのマーケティングに従事する。うち3年はシンガポールに駐在。現在は東京在住、オンライン動画配信ビジネスのMarketing Directorを勤める。