PanelDiscussion1

Facebook COOシェリルとDeNA南場さんの議論にみる女性の働き方


 

前回に引き続き、7月2日に実施されたグローバル・ウーマン・リーダーズ・サミットのレポート第3弾です。シェリルと南場さんの講演に引き続き、”ウーマノミクス”提唱者のキャシー松井さん、早稲田大学大学院教授の川本裕子さんを加え4人のパネルディスカッションが行われました。女性の社会進出をサポートするシェリルとそこには否定的な南場さんの対比が面白く、そこからの考察をまとめます。

参考リンク:Facebook COO シェリル・サンドバーグの説く3つの「すべきこと」
参考リンク:DeNA南場流リーダーシップは「多様なメンバーを高揚感でまとめる」

PanelDiscussion2シェリルと南場さんの異なる視点

シェリルと南場さんの女性の社会進出に関する考え方がここまで異なるというのは、聞いてきて興味深かったです。予定調和的な不自然な合意もなく、モデレーターも苦笑するような展開。パネルディスカッション中で特に際立った2人の意見の違いは大きく2つの点に集約されるように思います。

1)  女性の管理職の割合を決めるクオータ制の是非について

女性の社会進出が進んでいないことに対し強い問題提起を行うシェリルは、クオータ制を設けるだけでは不十分とクオータ制ありきの考え方。対し、南場さんは女性ばかりを擁護することには否定的です。むしろ、性別を超越して実力のみを曇りなく評価することが人事のあるべき姿という主張。「実力ではなくクオータ制が理由で選ばれた女性マネジメントのもとで、女性社員が本当に頑張りますか?」というのが、南場さんの強いコメントでした。

2)  女性のパフォーマンスについての評価

シェリルの主張は、女性の評価は時としてとても曖昧で無意識の差別を含んでいることが多いというもの。例えば、1つの昇進をめぐって男女の候補者が比較される際に「彼女の方が結果を出しているけれど、彼の方が人望が厚い」といった言葉が聞かれる。対し、南場さんは「女性だから意地悪されているなんて感じたことはない。むしろ女性であることで珍しがられ耳を傾けてもらえることが多かった。むしろ女性は得だと思う。」との考え。その上「女性だから意地悪されてるなんて言っていたら、本当にそうなってしまうから、言わない方が良いんじゃないかしら(笑)」とのコメントでした。

仕事を続けるための迷惑は大いに結構

逆に2人とも価値観が共通していたのは、仕事を続けようというメッセージ出産や育児で大変でも続けて欲しい。そのためのサポートは惜しまないという姿勢です。「日本人は迷惑をかけてはいけないと考える。でも、仕事を続けるための迷惑は大いに結構。かけた迷惑はあとで頑張って返せばいい。それが無理でも、あとから次世代にお返しすればいい。細く長く休んだりしながらも働く人を、私は全力で魂を込めて応援したい。」との南場さんのコメントに会場が一体化したのを感じました。

PanelDiscussion1日本は「働く女性として避けたい国」ワースト2 

この2人の意見を聞いて皆さんはどう思いますか?私は、世界各地で女性が自由に働くことのできる環境が整っていない状況を改善していくことはとても重要だと思います。特にエコノミストが実施したGlass Ceiling Indexの調査結果によると、日本は、韓国に次いで「働く女性として避けたい国」ワースト2なのです。これを見ても、女性の社会進出が日本において課題であることは紛れもない事実であり、この状況を改善するために企業はサポート体制を変えていくべきでしょう。

クオータ制で無理矢理、女性管理職を増やすことを否定する南場さんの主張は一理あるものの、今まで通りのことをしていても社会は変わりません。無意識の偏見に押し潰されキャリアを諦めてしまう女性がいない社会にしていかないといけない。男女の賃金差・管理職の比率などを変えていかなけれないけない。それは、ただ心の中で望んでいるだけでは実現しないのです。シェリルのように信念を伝えるために本を書き、女性のためのグループを発足させ、世界で講演を行い、ロールモデルとして活躍することが大きなインパクトを生むのだと思います。

「私と仕事、どっちの方が大切なの?」

シェリルと南場さんの意見を聞きながら、思い出した昔の体験があります。幼かった頃、仕事から帰った母に「私と仕事、どっちの方が大切なの?」と泣きながら聞いたのを覚えています。母の答えはハッキリとは覚えていませんが、後日大きくなってから、あれは本当に辛かったと母が言っていました。あの時、仕事を本当に辞めようと思ったと。当時は、小学生だった私には高校の教員をしていた母が仕事で帰りが遅いことが寂しくて仕方がありませんでした。でも、今となっては母が仕事を辞めないでいてくれて本当に良かったと思うのです。彼女が頑張る姿が誇らしかったし、そうやって母親が頑張る姿を見て育ったことは間接的に私の人生に影響を与えています。昨年、母は定年退職しました。最近の私を見て、しょっちゅう「そんなに働いてどうするの?」と笑っています。でも、仕事を楽しいと思う人生を送ることになったのは母の背中を見て育ったからだと思います。

もちろん、人によっては仕事をすることを特に望んでいない人もいるでしょう。家庭優先で専業主婦をする人生を全く否定するつもりはありません。ただ、私の母のように(普段は仕事が嫌だと愚痴りつつも。笑)仕事を続けたいと思う人が続けられる社会にするということは、とても重要な課題だと思います。そして、そんな社会に一歩一歩近づくために、グローバル・ウーマン・リーダーズ・サミットのようなイベントが開かれ、パネルディスカッションで議論をするというのはとても良いことだと思うのです。

批判を恐れずに意思表示を

女性がジェンダーの問題について語ると、批判の的になることは多いと思います。「フェミニスト」とネガティブに言われたり、オンナを捨ててると言われたり・・・実際、シェリルの著書「Lean In」での主張もUSでは賞賛とともに大きなバッシングにもあっています。(理由は「キラキラの経歴の彼女だからできることを押し付けないで欲しい」「誰もがシェリルのような輝かしいキャリアを望んでいる訳ではない」といったもの。)それでも女性の働きやすい社会を目指して立ち上がっているシェリルに私は共感し、彼女を尊敬します。と、今回は私も批判を恐れずに書いてみました。もしも、共感してくださる方がいれば、少しだけその気持ちを表に出してみませんか。


Author: Kazuyo Nakatani 中谷和世 Kazuyo Nakatani: 音楽大学声楽科卒業後、留学斡旋企業の営業/マーケティングを担当。その後、USへ渡り2007年にミシガン大学MBA取得。2007年〜2012年P&GにてSK-IIのマーケティングに従事する。うち3年はシンガポールに駐在。現在は東京在住、オンライン動画配信ビジネスのMarketing Directorを勤める。